あえて多くを語らない優しさ。『パルティータを鳴らすまで』を読んで📕

2026年08月19日 10:29

南天さん著の『パルティータを鳴らすまで』

久しぶりに、こんなにも感情を揺さぶられる本に出会いました。
読み終えた今も、物語の余韻が静かに残っています。

この作品は、里親家庭で育った14歳の少年が、実の親のもとへ戻る日を前に、「家族とは何か」「自分はどう生きていくのか」を模索しながら成長していく物語です。

幼い頃から里親のヴァイオリン工房で育ち、大好きなヴァイオリンとともに歩んできた少年。

自分では変えられない境遇の中で葛藤しながらも、周囲への感謝を忘れず、自らの力で未来へ踏み出そうとする姿が強く印象に残りました。

タイトルの「パルティータ」は、少年が演奏するバッハの《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番》とも重なりますが、イタリア語で「出発」という意味でもあるそうです。
少年にとっての新たな人生への旅立ちが、このタイトルに込められているのかもしれません。

物語の前半は、まもなく訪れる里親との別れを思うだけで切ない気持ちになりました。

でも読み進めるうちに、登場する人たちはみんな、不器用だけれど心優しい人たちなのだと気づきます。

それぞれが相手を大切に思いながらも、その思いをうまく言葉にできない。だからこそ、その静かな優しさがより深く心に残ったのかもしれません。

現代では「自分の思いをはっきり言葉にして伝えること」が大切だと言われます。

それももちろん素敵なことですが、この作品には、あえて多くを語らずとも伝わる思いや、胸の奥にそっと秘める優しさが描かれていました。

本の内容とは少し離れますが、この夏休み、大学生と社会人になった娘たちと束の間の団らんを過ごしました。

社会人になった長女は昔から周りの空気を感じ取り、自然と人の気持ちに寄り添う言葉をかけてくれます。今回も家族それぞれの思いを、さりげなくつないでくれているように感じました。

普段はあまり心の内を語らない夫も、その時間は終始穏やかな笑顔でした。また夫は、次女に対してもピアノの話ではなく、愛犬のことや日々の何気ない出来事を楽しそうに話していました。

子どもたちが成長してもなお、親としては心配で「こちらの道の方がいいのでは」「少し立ち止まった方がいいのでは」と、つい手や口を差し伸べたくなります。

けれど、自分が同じ年頃だった頃を思い返すと、そんなに真剣に自分の人生と向き合えていただろうか……と考えてしまいます。

この本を読み、そして家族との時間を過ごす中で、愛情とは導くことや助言することだけではなく、「相手を信じて見守ること」でもあるのだと改めて教えられた気がします。

読み終えた後も温かな余韻が残る、そんな一冊でした。

この素敵な本を教えてくれた親友のピアノの先生にも、深く感謝しています。

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